現在、生物多様性は、様々な問題に直面しています。
鹿児島市でも、昭和40年頃(高度経済成長期)に市民の生活様式は大きく変化しました。そのため、市民と自然環境との関わりが少なくなり、あまり自然や生き物に対して、気づいたり、考えたり、行動したりしなくなりました。
人間の、便利さや快適さ、利益を求める暮らし(これは決して悪いことではなかったはずですが)が原因で、生物多様性に関する問題が生じています。
1.開発などによる生息環境の消失

私たち人間は、暮らしを便利にするために自然をこわしてきました。
例えば、人間が住む団地をつくるために木を切ったり、会社や工場をつくるために海をうめ立てています。
森林や干がたが少なくなると、生き物のすむ場所が少なくなり、生き物にとってすみにくい街になってしまいます。
生き物にとってすみにくい街
鹿児島市には海域から市街地、農地、森林までさまざまな環境が存在しています。しかし、これまでの開発の結果、生き物にとってすみにくい地域ができてきてしまいました。
今後、川、海や街などを整備するにあたっては、生き物といっしょに暮らしていく視点を入れていくことが必要です。

2.人との関わりで形成された里地里山の機能の低下

私たち人間は、暮らしが豊かになるとどんどん便利さを求めます。農村から、便利な街で生活する人がしだいに増えていったため、農村で働く人が少なくなり、高れい化も進みました。
昔は、薪を取るために木を切ったり、牛や馬のエサとなっていた草原があったりと、人々が生活のために自然と関わることで多くの生態系が保たれていました。
しかし、電気・ガスの使用が当たり前になり、薪を使わなくなるなど、生活様式も変化していきました。
そして、農林業で働く人が少なくなった今、自然との関わりが少なくなり、田や畑、山林に人の手が入らず、荒れたままになって生態系が失われています。
また、手入れがされていない畑が増えると、鳥やイノシシが近づきやすくなり、農作物を食べられてしまうという問題があります。
3.環境汚染や地域外からやってきた生き物による影響

ペットや観賞用として持ちこまれたミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)やボタンウキクサなど、もともと市内にいなかった生き物(外来生物)が見られるようになっています。
このままでは、外からやってきた生き物に、もともとすんでいた生き物が場所をとられたり、食べられてしまったり、また、もともとすんでいた生き物とまざり雑種が生まれる可能性が心配されています。
そのほか、もともとは自然界に存在しなかった化学物質などによる地下水、川の水などの汚染、森林などへの不法投きによる環境汚染は、水のふ栄養化や、生き物の住む場所をうばい、生き物そのものの死を引き起こすことなどもあります。
4.気温の上昇などの環境変化による影響

鹿児島市では、1913年(大正2年)から2012年(平成24年)の100年間に、約1.80℃も1年の平均気温が高くなり、1日の最低気温が0℃を下回る日は少なくなっています。
このため、今まで冬をこせなかった生き物がすみついたり、植物の開花が早まったり、逆に紅葉の時期が遅くなったりといった変化が起こりはじめているようです。
鹿児島市の平均気温

5.生活様式の変化による影響

いつでも野菜や果物を買いたいという願いや、食の洋風化などにより、世界中から食料などのたくさんの物が鹿児島市に運び込まれています。また、便利さ・快適さを求める暮らしによって、エネルギー利用の変化が起こり、夜でも明るい街となり、自然とのふれあいが少なくなりました。
このため、自然への考えが大きく変化してきました。
このことは、私たちの暮らしの変化だけではなく、自然へも影響しています。
旬ではない作物を作ることは、花粉を使う生き物の発生リズムを変え、夜でも明るい街づくりは鳥や植物の生活リズムを変える可能性があるなど、生き物の成長にいろいろな影響があることが心配されています。
また、世界から食べ物や物を持ちこむことは、その地域の生態系を乱したり、外来生物を市内に持ち込むことになるという恐れもあります。
このような私たちの生活様式の変化は、自然とのつながりを減らす要因となりました。そして、生物多様性が少なくなっていることに気づかなくなったり、自然を大切にしようとする行動をとらなくなってしまうという影響をも生んでいます。
今の暮らしと昔の暮らし
昭和期の高度成長期を経て、私たちの暮らしは目に見えて変化していきました。
各家庭ではさまざまな電化製品や自家用車が使われ、暮らしは便利で楽になりました。
しかし、その一方で大量のエネルギーを消費しなければ、暮らしを維持することができなくなっています。

6.情報不足による影響

鹿児島市内にどのような生き物がどのくらいすんでいて、外来生物がどこにいるのか、という情報が不足しています。特に環境のめじるしとなる生き物などを続けて調査しているような情報がありません。そのため、必要な対策がとれずに、すでにいなくなってしまった生き物もいます。
また、研究者には情報があったとしても、それを市民が知ったり理解したりする機会がないことも多くあります。そのため生き物のすむ場所を大切にする取り組みがされなかったり、外来種への適切な対応につながらないということも考えられます。
木を切ったり海をうめ立てたりすること、不法投きなどによる環境汚染、外来生物を持ち込むことや生活様式が変化したことなど、私たち人間の暮らしが原因で、生き物がすみにくい自然環境になっています。
また、気温の上昇などの環境変化により、生き物の行動が変化しています。